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Methionine metabolism regulates pluripotent stem cell pluripotency and differentiation through zinc mobilization. Sim Z.E, Enomoto T, Shiraki N, Furuta N, Kashio S, Kambe T. Tsuyama T. Arakawa A, Ozawa H. Yokoyama M, Miura M, Kume S. Cell Reports 40, 111120. Doi.org/10.1016/j.celrep.2022.111120
<Japanese / English>
Dopamine negatively regulates insulin secretion through D1-D2 receptor heteromer. Uefune F, Aonishi T, Kitaguchi T, Takahashi H, Seino S, Sakano D, Kume S. Diabetes 74, 1946-1961, 2022. https://doi.org/10.2337/db21-0644 online published
<Japanese / English>
VMAT2 safeguards beta-cells against dopamine cytotoxicity under high-fat diet induced stress. Sakano D, Uefune F, Tokuma H, Sonoda Y, Matsuura K, Takeda N, Nakagata N, Kume K, Shiraki N, Kume S. Diabetes (Eng ver) 69, 1-15, 2020.online ahead of print. Aug 21, 2020.https://dx.doi.org/10.2337/db20-0207
Insulin2 Q104del (Kuma) Mutant Mice Develop Diabetes with Dominant Inheritance.
Daisuke Sakano, Airi Inoue, Takayuki Enomoto, Mai Imasak, Seiji Okada, Mutsumi Yokota, Masato Koik, Kimi Araki K, Shoen Kume. Sci Reports (Eng ver) 2020. doi: 10.1038/s41598-020-68987-z.
Dopamine D2 receptor-mediated regulation of beta cell mass.
Daisuke Sakano, Sungik Choi, Masateru Kataoka, Nobuaki Shiraki, Motonari Uesugi, Kazuhiko Kume, Shoen Kume.
Stem Cell Report 7, 95-109, 2016.
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[+] Methionine Metabolism Regulates Maintenance and Differentiation of Human Pluripotent Stem Cells.
Nobuaki Shiraki, Yasuko Shiraki, Tomonori Tsuyama, Fumiaki Obata, Masayuki Miura, Genta Nagae, Hiroyuki Aburatani, Kazuhiko Kume, Fumio Endo, Shoen Kume. Cell Metabolism19, 780-794, 2014
【概要】
ES/iPS細胞といった多能性幹細胞では,分化細胞とは異なる代謝プログラムを保持していることがわかっており、その代謝プログラムが幹細胞の未分化 維持や自己複製能などに関与することも明らかになってきている。アミノ酸代謝と幹細胞との関係については2009年に、マウスES/iPS細胞の生存には アミノ酸の一種であるスレオニンが必須であることが報告されていたが、ヒト多能性幹細胞におけるアミノ酸代謝の役割は不明であった。
本研究では、メチオニン代謝がヒトES/iPS細胞の未分化維持および分化を制御していることを明らかにし、メチオニンを除去した培養液を利用した分化促進および未分化細胞の選択的除去に世界で初めて成功した。
ヒト多能性幹細胞であるヒトES/iPS細胞を用いた検討により、生存にはマウスの場合とは異なるアミノ酸であるメチオニンが必須であり、その代謝物であるSアデノシルメチオニン(SAM)を介してヒトES/iPS細胞の未分化維持および分化を制御することを見出した。さらに、未分化細胞は分化した内胚葉 細胞と比較して、生存により多くのメチオニンが必要であることも見出した。未分化なヒトES/iPS細胞をメチオニン除去培養液で培養すると、細胞内の SAM濃度が顕著に低下し、それに伴いp53の発現上昇、ヒストンH3の4番目のリジン残基のトリメチル化(H3K4me3)の低下、未分化マーカーであるNanogの発現低下が起こった。続いて、ヒトES/iPS細胞がもつ代謝特性の分化誘導へ応用を試みた結果、未分化過程においてメチオニン除去後に内胚葉・中胚葉・外胚葉へそれぞれ分化誘導すると顕著な分化促進効果を確認した。さらに、内胚葉への分化誘導過程においてメチオニン除去培養液で培養することにより、残存する未分化細胞特異的に細胞死を誘導することができ、その後の肝臓分化を効率的に行うことに成功した。
本研究により、これまで不明であったヒトES/iPS細胞におけるメチオニン代謝の役割を明らかにすることができた。さらに未分化細胞の高いメチオニン 代謝特性を利用し、メチオニン除去培養液を利用する未分化状態からの分化促進と内胚葉分化過程での肝臓分化の効率化という2つの新たな分化誘導方法を構築した。
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[+] VMAT2 identified as a regulator of late-stage β-cell differentiation.
Daisuke Sakano, Nobuaki Shiraki, Kazuhide Kikawa, Taiji Yamazoe, Masateru Kataoka, Kahoko Umeda, Kimi Araki, Di Mao, Naomi Nakagata, Shirou Matsumoto, Olov Andersson, Didier Stainier, Fumio Endo, Kazuhiko Kume, Motonari Uesugi and Shoen Kume
Nature Chemical Biology 10, 141-148, 2013.
【概要】
膵臓β細胞は血液中の グルコース 糖の濃度を正常に維持するために必要なインスリンを産生分泌しています。インスリン産生が不十分、あるいはインスリンの作用が悪くなると糖尿病を発症しま す。重篤な糖尿病では、インスリンが作れなくなり、血糖コントロールが困難な状況に陥ってしまい、移植医療が必要になりますが、ドナー不足が大きな問題点 となっており、その解決には、多能性幹細胞を用いた再生医療が期待されています。
哺乳類の発生において、膵臓は胚性内胚葉、膵前駆細胞、内分泌前駆細胞を経てインスリンを産生する β 細胞へ分化します。従来の ES・iPS細胞の培養手法は、膵臓の自然な発生過程で使われている液性因子を試験管内で連続的な添加によってPdx1陽性の膵前駆細胞まで高い効率で分化誘導することを可能になった(Shirakiら、2008)。しかし、分化機構が分からない場合では、この手法ではうまく行かない。本研究では、細胞内の未知なシグナルを活性化あるいは不活性化させる低分子化合物を見つけることで、膵臓β細胞への分化促進を狙った。もし分化促進化合物が見つかれば、分化に関わるシグナル分子を突き止めること、さらに化合物を利用して分化細胞を得ることができる。
本研究では、まず、マウス ES細胞から膵前駆細胞を誘導した後、1,120の低分子化合物の中から 小胞型モノアミントランスポーターの 1つ VMAT2の阻害剤が膵前駆細胞から内分泌前駆細胞への分化を促進する効果があることを見出した。モノアミンはβ細胞の分化を阻害する作用があること から、 VMAT2は発生過程で細胞内のモノアミン量の調節を介して、β細胞数を制御する役割を担っていると考えられます。実際、膵臓の発生過程においてもモノア ミンにより分化が調節されていることを明らかにした。さらに上記の論文では、 cAMPによりβ細胞の成熟化が促進され、グルコース濃度に応じたインスリン分泌能をもったβ細胞が得られることを見出した。
上記の 2つの低分子化合物(VMAT2阻害剤およびcAMP)をES細胞に作用させることにより、成体膵島に近いインスリン含量と高グルコース濃度に応じたイン スリン分泌能をもった膵β細胞を作製でき、糖尿病モデルマウスの高血糖を正常化できた。このように、膵β細胞の作製に VMAT2阻害剤が有効であることを発見し、再生医療への展望が開けたが、ヒトiPS細胞から膵β細胞の作製に、今回得られた情報をいかに応用していくかが今後の課題である。
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[+] A synthetic nanofibrillar matrix promotes in vitro hepatic differentiation of embryonic stem cells and induced pluripotent stem cells.
Taiji Yamazoe, Nobuaki Shiraki, Masashi Toyoda, Nobutaka Kiyokawa, Hajime Okita, Yoshitaka Miyagawa, Hidenori Akutsu, Akihiro Umezawa, Yutaka Sasaki, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume
J. Cell Sci. 126, 5391-5399, 2013
【概要】
本研究では、マウスおよびヒトにおける ES 細胞および iPS 細胞の肝細胞分化誘導を効率化するための最適な細胞足場環境を探索し、その分化効率化を促す分子メカニズムを同定することを目的として、完全合成基材であるナノファイバーに注目した。この培養基材は未分化の ES 細胞の増殖を促進し、初代培養細胞の機能維持に優れていると報告されている。そこで再生医療および研究利用のために、未同定物質を含むウシ胎仔血清を用い ない合成培地で分化誘導を確立し、一般的に用いられている細胞外マトリックス成分であるゼラチン・コラーゲンタイプ I ・ファイブロネクチン・マトリゲルと比較したところ、内胚葉分化誘導効率、肝細胞分化マーカーの上昇、肝機能が有意に高いことがわかった。
また、このナノファイバーにおける分化誘導効率化に寄与する分子機構の同定を行うために、ES 細胞がドーム状になるという細胞形態変化がナノファイバー上で見られることに注目し、細胞骨格を制御する Rho ファミリーのRac1 活性を測定したところ未分化状態ならびに分化途中においても活性化していた。ナノファイバーの肝分化誘導効果は Rac1 の活性化が寄与しており、Rac1 の活性化は分化過程のいずれの時期においても重要であることが示唆された。
【概要】
ES・iPS細胞は、あらゆる細胞に分化できる能力をもつため再生医療への実用化に注目されている。なかでも内胚葉は、膵臓や肝臓といったヒトにとって重 要な機能をもつ臓器へと分化する分岐点に位置するため、効率的な分化誘導、分化細胞の品質管理が不可欠である。分化度の確認は、指標となるmRNAや細胞内タンパク質の発現量を一定期間ごとに測定し、それらの発現量の変化で判断するため一部の培養細胞を破壊する必要があった。
本研究では、培養上清中に分泌されたCerberus 1タンパク質を測定することで細胞を破壊することなく内胚葉細胞の分化度を測定する方法を構築した。マウスES細胞を内胚葉へ分化した場合、 Cerberus 1は内胚葉マーカーとしてよく用いられるSox17 (Sry-box containing gene 17)と遺伝子発現レベルにてほぼ同時期に内胚葉特異的に発現し、培養上清中に分泌されたCerberus 1量も分化日数に比例して増加した。これらを発現する細胞の割合と内胚葉細胞表面マーカーであるCxcr4 (C-X-C chemokine receptor type 4)、ECD (E-Cadherin)二重陽性細胞の割合との相関が確認された。またヒトiPS細胞においても、培養上清中のCerberus 1分泌量は内胚葉マーカーであるSox17、Foxa2 (Forkhead box protein A2)二重陽性細胞数と相関することが明らかとなった。本研究で開発したCerberus 1 ELISA(抗原抗体反応を利用した高感度抗原検出定量法)を用いることで、iPS細胞を継続培養しながら内胚葉分化効率を簡便に測定することが可能となり、iPS細胞分化の品質管理への利用が期待される。
【概要】
本研究では、Wntシグナルと Notch シグナルがマウス、ヒトES 細胞から内胚葉系譜の小腸上皮の細胞への分化に関与することを初めて明らかにした。万能性幹細胞を用いた小腸上皮細胞への分化誘導研究は 発生研 究や薬物動態研究において重要であり、また重度の炎症性腸疾患などの治療法として小腸上皮細胞の移植を必要とするため再生医療においても重要である。近年、成体の腸幹細胞研究は盛んであるが、万能性幹細胞からの研究はあまり行われていない。
今回の研究では、万能性幹細胞である ES 細胞から内胚葉の細胞に分化後、様々な液性因子を添加した結果、Wntシグナルを活性化し、Notch シグナルを抑制することで小腸上皮の細胞への分化が促進され、全体の 88% 程度の細胞が小腸上皮の細胞となった。またこの分化過程には Fgfや Bmp、Hhシグナルも関与していることが示唆された。この ES 細胞由来の小腸上皮細胞には、吸収腸細胞など成体小腸上皮を構成する様々な細胞も存在していた。今後はこの細胞を用いた小腸の発生メカニズムや炎症性腸疾患の 病因解明などの基礎研究と創薬や再生医療などの応用研究が期待できる。
【概要】
創薬研究において、新薬候補物質がどのように肝臓で代謝され、薬効や毒性をもたらすかを評価することは重要である。しかし、新鮮なヒトの肝細胞の入手は困難であり、また、現在、薬効毒性試験に用いられている凍結肝細胞では、薬物代謝活性に人種差やロット間の差があることが問題となっている。ヒトES、iPS細胞から、成熟肝細胞を効率よく分化させることができれば、ヒト肝細胞を安定に供給でき、上記の問題が解決できる。
本研究では、高効率な遺伝子相同組換え技術であるヘルパー依存型アデノウィルスを用いて、アルブミン (ALB ) 遺伝子座に橙色蛍光タンパク質(mKO1)遺伝子を導入したヒトES細胞株およびiPS細胞株を樹立した。この細胞株由来の分化細胞では、mKO1の蛍光が内在のALB 遺伝子の転写活性を反映するため、レポーターの蛍光を指標に、肝細胞を 可視化、定量化、純化することが可能である。フローサイトメトリーで選別した mKO1陽性細胞と陰性細胞を、マイクロアレイ解析により比較したところ、mKO1陽性細胞において、薬物代謝など、肝機能と関連のある遺伝子群の発現が 増加しており、mKO1陽性細胞が肝細胞の特性を有することが確認された。したがって、樹立した細胞株は、成熟肝細胞への分化誘導法の構築や、肝臓の発生分化の機構の解明を行う上で、有用な資源となりうる。
【概要】
膵臓前駆細胞の起源を知ることは、膵臓の発生分化の手がかりを得て、さらに効率的な ES 細胞を用いた分化誘導方法を開発するために重要である。
本研究では、初期胚において膵臓前駆細胞がどこに存在しているのかを明らかにする目的で、マウス胚を用いてPdx1 陽性細胞の起源について解析を行った。これまでに、発生中期における Pdx1 発現は腹側膵芽、背側膵芽で報告されていたが、今回は DiI 蛍光色素溶液を用いた細胞標識法により、発生初期において内胚葉の前腸門に発現する Pdx1 陽 性細胞が将来の腹側膵臓に分化する予定膵臓細胞であることを明らかにした。また腹側膵芽予定領域の右側領域は、腹側膵芽より後方 の腸管予定領域であるが、左側領域は腹側膵芽より前方の腸管予定領域であり、前腸門の左―右が前―後になることがわかった。すなわち、左右非 対称性が前後非対称性に変換された。この変換は前腸門に Pdx1 遺伝子が発現されるようになってから見られる現象であった。さらに脊索上の内胚葉に背側膵芽予定領域および十二指腸予定領域が存在しており、細胞運命決定は、背側が腹側膵芽より遅いことがわかった。このように腹側膵芽と背側膵芽が異なる内胚葉の場所から発生することが初めて明らかになった。本研究は、腹側膵芽と背側膵芽の細胞運命決定シグナルが別々の場所 から送られることを示唆しており、今後の膵芽形成の分子メカニズムを解明するための手がかりになる。
【概要】
本研究では、マウスおよびヒトES 細胞から支持細胞および血清を用いずに肝臓を分化誘導する方法を構築し、報告した。無支持細胞・無血清での分化誘導には、共同研究者の国立環境研究所の持立克身博士らのグループが作製した擬似基底膜を使用した。擬似基底膜を用いて分化誘導したヒトES細胞由来の肝臓細胞は、アルブミンを分泌し、薬物代謝酵素活性を示した。さらに、基底膜からの誘導メカニズムを解析した結果、基底膜成分であるラミニンのシグナルがインテグリンを介して伝達され、Akt (プロテインキナーゼ B) のリン酸化を介して、肝臓分化を誘導していることを見いだした。今回、開発した方法やそこから得られるヒトES 細胞由来の肝臓細胞を利用することで、肝臓分化機序のさらなる解明や新薬の安全性評価および薬理評価への応用が期待される。
【概要】
膵臓を構成するすべての細胞(内分泌細胞、外分泌細胞、導管)は、 Pdx1 陽性細胞に由来することが分かっている。膵臓は、前腸内胚葉から発生し、初期に隣接する脊索から分化を維持するシグナルを受け取り、次に隣接してくる背側 大動脈よりシグナルを受けて、成熟化していくことが知られている。しかし、最初の Pdx1 の 発現誘導のメカニズムについては、全く不明であった。
本研究では、膵臓形成の最初のイベントである Pdx1 発現誘導過程に、angioblast (血 管芽細胞)が深く関与していることを突き止めた。以前の論文で、ニワトリ胚を用い、詳細な細胞運命予定地図を作製し、予定膵臓領域を明らかにするとともに、初期内胚葉の領域化は、胃、腸、膵臓 の順番に起こり、膵臓は、内胚葉と中胚葉の移動速度の差により生じた“ずれ”によって生じる説を提唱した ( Katsumoto et al., 2009 ; Matsuura et al., 2009 )。本研究で詳細に解析したところ、初期のPdx1の発現は体節間で起こりはじめること、また、血管芽細胞がそれに隣接していることがわかった。さらに、細胞移動に重要な働きを持つケモカイン (CXCL12, CXCR4 )が、血管芽細胞と初期内胚葉に発現していることもわかった。Cxcl12 を異所的に強制発現させたところ、血管芽細胞が異所的に Cxcl12 を発現している領域へ遊走され、Pdx1 発現領域が拡大し、インスリン発現領域(膵 β 細胞)ならびに膵臓が拡大した。一方、CXCR4 の阻害剤で胚を処理したところ、血管芽細胞の遊走が阻害され、血管形成のタイミングが遅れPdx1 発現領域が縮小し、インスリン発現領域および膵臓が縮小した。まとめると、
1)膵臓の起源は、初期内胚葉が 血管芽細胞と出会うことからはじまる。
2)ケモカインシグナル ( CXCL12, CXCR4 )は、膵臓( Pdx1 発現 )を誘導するために、 血 管芽細胞が適切なタイミングかつ場所に遊走できるように、その動きを時空間的に制御している。本研究は、これまで全く不明であった“膵臓形成のはじまり”を初めて解き明かした研究である。
【概要】
本研究では、ES 細胞由来の分化細胞を用いてマイクロアレイ解析を行った。マイクロアレイ解析の結果から ES 細胞由来の内胚葉や膵臓前駆細胞で発現が上昇した 54 個の遺伝子を抽出し、これらの遺伝子について胎生 8.5 日目の胚と胎生 14.5 日目の膵臓で in situ hybridization を行った。解析の結果 27 個の遺伝子について内胚葉もしくは膵臓での発現を同定した。この中にはこれまで内胚葉や膵臓での発現が知られていなかった 4 個の遺伝子も含まれていた。 ES 細胞の分化誘導系が初期の発生を理解するツールとして非常に優れていることを証明した。
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[+] Synthesized basement membranes direct the differentiation of mouse embryonic stem cells into pancreatic lineages.
Yuichiro Higuchi, Nobuaki Shiraki, Keitaro Yamane, Zeng Qin, Katsumi Mochitate, Kimi Araki, Takafumi Senokuchi, Kazuya Yamagata, Manami Hara, Kazuhiko Kume, and Shoen Kume
J. Cell Sci. 123, 2733-2742, 2010.
【概要】
これまで、マウス胚性幹(ES)細胞より膵臓前駆細胞を分化誘導する方法として、マウス胎仔中腎由来の細胞株である M15 細胞を支持細胞として用いる方法を確立し報告した(Shiraki et al., Stem Cells, 2008)。この誘導系において、内胚葉細胞が膵臓の前駆細胞へと分化する過程には M15 細胞と ES 細胞との直接な接着が必要であり、細胞間で働く近位のシグナルが膵臓の領域化に重要であると推測した。マイクロアレイ解析の結果、 M15 細胞において基底膜の構成因子の一つであるラミニン α5(Lama5 )が高レベルに発現していることを見いだした。さらに、M15 細胞においてLama5 の発現をノックダウンすると、膵前駆細胞の誘導が抑制されることを確認した。
Lama5 ノックダウン実験の結果より、膵臓への分化には基底膜が重要な役割を果たしていると推測した。基底膜は上皮 - 間充織間などに存在する薄いシート状の構造であり、隣接する細胞の接着や移動のほか、分化にも影響を与えることが知られている。そこで今回、多能性幹細胞 分野の樋口裕一郎(大学院博士課程;現実験動物中央研究所)らは、国立環境研究所の持立克身らのグループが確立した擬似基底膜(synthesized basement membrane, sBM)に着目し、これを用いた新規膵臓分化誘導系の開発を試みた。その結果、sBM上において支持細胞無しに ES 細胞は内胚葉から膵前駆細胞へと分化し、さらにインスリン産生細胞にまで分化した。分化誘導した細胞を免疫不全マウスの腎被膜下 に移植すると、生体内でさらに成熟化し、膵島様の構造を形成した。
基底膜からの誘導メカニズムを解析した結果、ラミニンのシグナルがインテグリンを介して伝達され、膵臓分化を誘導していることを見いだした。また、基底膜の構成因子である Hspg2 (Heparan sulfate proteoglycan 2 )や、その他のヘパラン硫酸プロテオグリカンについても膵臓分化に影響を与えていることを見いだした。これらの結果は不明な点の多い初期の膵臓分化メカニズムについて、基底膜からの誘導という新たなモデルを提唱するものである。
【概要】
本研究では、ニワトリ胚において、今まで広く受入れられてきた腹側膵臓の起源に関する従来の説を覆し、新しい説を提唱した。
初期の膵臓形成は、背側膵臓、腹側膵臓の2カ所の予定領域から独立して進行し、後の腸回転運動により腹側膵臓が背側膵臓に融合することによって行われる。従来の説では、予定腹側膵臓領域は10体節期において、第7~9体節の側方に存在すると報告されていた。しかし、本研究において、DiI 結晶を用いた方法で、10体節期の第7~9体節の側方内胚葉を細胞標識し、その後の発生過程を追跡したところ、この領域には腹側膵臓ではなく、背側膵臓および 腸領域の前駆細胞が存在することを確認した。次に、腹側膵臓の起源を特定する目的で、各ステージの各領域を標識して詳細に追跡したところ、15体節期まで は、腹側膵臓単独に分化する領域が存在しておらず、腹側膵臓の前駆細胞は、腸もしくは胆管と共通の前駆細胞として存在していた。そして、17体節期になっ て初めて第4体節の側方に腹側膵臓単独の前駆細胞が現れることを明らかにした。背側膵臓と腹側膵臓は、その発生起源が異なるのみならず、その機能も異なる可能性が示唆された。背側膵臓には、インスリン産生細胞およびアミラーゼ産生細胞が存在するのに対し、背側膵臓に融合する前の腹側膵臓においては、インスリン産生細胞が存在せず、アミラーゼ産生細胞のみが存在した。このことは、インスリンを産生する膵臓β細胞の分化には、膵臓を取り巻く環境が大きな影響を与えていることを示唆する。今後さらに背側膵臓と腹側膵臓の形成過程を比較することで、膵 臓β細胞の分化メカニズムを解明できるかもしれない。
【概要】
本研究では、ヒトと似た発生様式であるニワトリ胚をモデル動物として、初期胚における初期膵臓形成過程の一端を明らかにした。膵臓前駆 細胞がどこに存在しているのかを明らかにする目的で、DiI 結晶*を用いる細胞標識法で、初期内胚葉における詳細な細胞運命予定地図を作製した。背側膵臓前駆細胞は、ヘンゼン結節周辺に存在し、発生の進行に伴い、連続的に尾側へ移動することを明らかにした。細胞運命予定地図を基に細胞移植実験を行なった結果、胃、腸、膵の順序で内胚葉の領域化が決定することがわかった。さらに、まだ運命が決定していない予定小腸内胚葉を、予定胃領域に移植すると、異所膵を形成した。予定胃と膵臓の内胚葉を裏打ちする中胚葉は、膵臓誘導シグナルを出している。一方、予定膵臓、小腸内胚葉は、この膵臓誘導シグナルに応答する。中胚葉と内胚葉は、移動して位置を変え、それぞれの移動速度に差があり、膵臓誘導シグナルを出す領域とそれに応答する領域が重なる領域から膵臓が発生してくる。このように、初期内胚葉の領域化は、頭 側と尾側から進行し、さらに膵臓領域が形成されるためには、中胚葉と内胚葉が移動して、移動速度の差により生じた中胚葉と内胚葉の重なりが決定的な役割を担っていることを明らかにした。この研究成果は、初期膵臓形成メカニズムを分子レベルで解明するための、大きなヒントになる。
(*従来の DiI 溶液を用いた細胞標識法に比べ、 DiI 結晶を用いた細胞標識法は、わずか 10 個前後の細胞だけを特異的に標識できるため解像度が高い。)
【概要】
ES 細胞は、初期胚に由来する多能性幹細胞で、細胞系譜の決定や可塑性などの機構について解析するのに適した系であり、 ES 細胞から各胚葉を誘導する技術については、多くの報告があるが、一つの系で三胚葉への分化を同時に観察できる分化誘導系の報告はこれまでなかった。
これまでに中胚葉由来の培養細胞株 M15 細胞を用いて内胚葉組織である膵臓および肝臓を効率的に分化誘導する方法を報告しており(Stem Cells, 2008; Genes Cells, 2008)、これらの研究で得られた知見を参考にして、M15 細胞と液性因子の添加を組み合わせることにより、ES 細胞から内胚葉のみならず中胚葉および外胚葉を効率よく分化誘導することに成功した。アクチビンおよび bFGF を添加することにより中内胚葉・内胚葉を、 BMP7 を添加することにより中胚葉を、P38 MAPK の阻害薬である SB203580 を添加することにより神経外胚葉を効率的に分化誘導することができた。分化誘導した各細胞について、マイクロアレイ解析を行った結果、各種マー カー遺伝子の発現を確認できた。さらに長期培養を行った結果、神経系ではニューロンのみならずアストロサイトやオリゴデンドロサイトへの分化、中胚葉系で は骨や脂肪細胞への分化が見られた。以上のことから、 M15 細胞を用いて分化誘導した細胞は、成熟した神経および中胚葉へ分化する能力を有していることが明らかになった。本論文で開発した分化誘導系やそこから得られる三胚葉の細胞を利用することで、発生初期現象のさらなる解明が期待される。
【概要】
今研究では、マウスおよびヒトES 細胞から肝臓の細胞を効率よく分化誘導できる方法を開発した。肝臓は創薬研究において中心的役割を果たす臓器であるが、新薬候補物質の体内での代謝および薬物毒性試験などにおいて、動物肝細胞とヒト肝細胞では物質代謝の大きな違いがあることから、動物実験だけでは毒性と有効性の検 定が不可能である。またヒト肝細胞の供給も極めて限定されており、多数の提供者から集められた細胞組織では試験データのばらつきが大きく有意義な結果を得ることは困難である。そこで、ヒトES 細胞から肝細胞への分化誘導技術が確立できれば、安定したヒト肝細胞の供給が可能となり、創薬研究分野における極めて重要な技術革新となる。
今回の研究では、まず、マウス ES 細胞を用いて培養条件の至適化を行い、先の研究で見いだした膵臓分化誘導条件から、少しずつ培養条件を変えていくことにより、肝臓分化に最適な培養液の組 成を決定した。最終的には、アクチビンと塩基性 FGF を除去し、代わりに HGF 、Dex などを添加することで非常に効率よく肝臓分化を誘導できた。続いて、開発した方法がヒト ES 細胞に応用できるか を検討した。ヒト ES 細胞はマウス ES 細胞と性質が若干異なるため、当初は培養方法 など困難も多かったが、最終的には非常に効率良く肝臓系譜へ分化誘導することに成功した。
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[+] Guided differentiation of ES cells into Pdx1-expressing regional specific definitive endoderm.
Nobuaki Shiraki, Tetsu Yoshida, Kimi Araki, Akihiro Umezawa, Yuichiro Higuchi, Hideo Goto, Kazuhiko Kume, Shoen Kume, S.
Stem Cells 26, 874-885, 2008.
【概要】
膵臓は 内胚葉由来の臓器であり、膵β細胞(インスリン陽性細胞)は膵前駆細胞( Pdx1 陽性細胞)・内分泌前駆細胞(Ngn3 陽性細胞)を介して発生する。本研究では、様々な細胞株を調べた結果、中腎由来の M15 細胞と共培養することにより ES 細胞から膵前駆細胞が効率よく分化誘導されることを見いだした。さらに、M15 細胞のもつ分化促進能力の本体について解析を行った結果、膵臓分化に関して、アクチビン・ FGF ・レチノイン酸・接着因子の関与が示唆された。そこで、 M15 細胞とこれらの液性因子の添加を組み合わせることで ES 細胞から非常に効率よく膵前駆細胞を分化誘導できる方法を確立できた。定量的な解析の結果、支持細胞のみの場合に得られる膵前駆細胞は約 2% 程度であったが、液性因子を添加することで約 30% と飛躍的に増加した。得られた膵前駆細胞については、マウスへの移植実験を行い、膵臓を構成するすべての細胞へ分化可能であることがわかった。また、この系を用いることで ES 細胞から中内胚葉・内胚葉を介した膵前駆細胞への分化誘導に関与する様々な因子についても検討を加えることができた。今後、開発した方法やそこから得られる膵前駆細胞を利用することで、膵臓分化機序のさらなる解明やインスリン産生を行う膵β細胞の再生医療への応用が期待される。
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